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プロダクトアップデート2026年7月22日12分で読めます

宝探しをやめて、追跡を始める——データを見ずにデータを守る「code-first DSPM」

本番データに一切触れず、コード・スキーマ・API定義・IaCから機微データの流れを追跡するAikidoのcode-first DSPMを解説。従来型DSPMとの違い、見つけられるもの、そして見つけられないものまで正直に整理します。

退会したユーザーのデータ、本当に消えていますか

アカウント削除のリクエストが来た。ユーザーテーブルから該当行を消した。処理は正常終了。

しかし、そのユーザーのメールアドレスは、サポートチケットの本文に残っている。分析基盤のイベントログにも残っている。エラー発生時のスタックトレースと一緒に、監視ツールにも送られている。

「機微データがどこにあるのか、把握できていない」——この問題を扱う分野が DSPM(Data Security Posture Management)です。機微データがどこに保存され、それが何のデータで、暗号化されているか、アクセス権が広すぎないか。データの所在とリスクを可視化するカテゴリで、ここ数年で急速に製品が増えました。

Aikido も 2026 年にこの領域に参入しました。ただし、既存の DSPM 製品とは根本的に違うやり方で、です。この記事では、その違いと——あえて——見つけられないものまで含めて解説します。

従来型 DSPM は「宝探し」

従来型の DSPM 製品(Cyera、Sentra、Orca など。Wiz のデータセキュリティ機能も同じ系統です)のやり方は、こうです。

本番のデータベースやストレージに接続する。中身をスキャンする。「16桁の数字だからクレジットカード番号らしい」「@ が入っているからメールアドレスらしい」と、データの見た目からそれが何かを推測する。

倉庫を全部開けて、中の荷物をひとつずつ確かめる。宝探しです。デプロイ済みの環境を直接見るので、そこに実在するデータを確実に棚卸しできる——これが強みです。

ただし、代償が2つあります。

第一に、ベンダーに本番データの読み取り権限を渡すことになります。機微データを守るためのツールに、まず機微データそのものを見せる。この構図に抵抗を感じる組織は、日本では特に少なくないはずです。

第二に、見た目からの推測は外れます。16桁の数字がすべてカード番号とは限らない。推測が外れた分だけ、誤検知として積み上がります。

Aikido のやり方は「追跡」——伝票を読む宅配便

Aikido の DSPM は、データそのものを一切見ません。読むのは、コードだけではありません。データベーススキーマ、ORM モデル、OpenAPI などの API 定義、Terraform や Kubernetes マニフェストといった Infrastructure as Code まで、アプリケーションを記述するファイル群すべてが解析対象です。この記事では、以下まとめて「コード」と呼びます。

考えてみれば、コードには最初から書いてあるのです。データベースのスキーマや ORM モデルは「何をどこに保存するか」を記述しています。カラム名が ssn なら、中身を開けなくても、そこに社会保障番号が入っていることは分かる。ストレージへの書き込み処理、API 定義、インフラ設定は「そのデータがどこへ運ばれるか」を記述しています。

荷物を開けずに、伝票と配送ルートで管理する。宅配便が毎日やっていることです。

この方式だと、データの「最終的な置き場所」だけでなく、アプリケーションに入った瞬間から出ていくまでの経路全体を追えます。フォームから入った氏名が、DB に保存され、エラーログに混入し、分析ツールへ送信され、LLM のプロンプトに埋め込まれる——その一本の線が見えるのです。

ここが両者の一番の違いです。従来型 DSPM は「データがある場所」を見つける。code-first DSPM は「データがどう流れたか」を追跡する。

比較を整理するとこうなります。

従来型 DSPM(宝探し)code-first DSPM(追跡)
見るもの本番データの中身コード・スキーマ・API 定義・インフラ設定
必要な権限データストアへの読み取りアクセスリポジトリへの読み取りアクセスのみ
分かることデータが「どこにあるか」データが「どう入り、どこへ運ばれるか」
見つかるタイミングデプロイ後デプロイ前(コードの段階)
見つけた後レポート→チケット起票原因の行を特定し、修正 PR を提案

具体的に何が見つかるのか

Aikido が公開している検出カテゴリは、どれも現場で心当たりのあるものばかりです。

  • ログへの個人情報混入 —— エラーハンドラ経由で Datadog や Sentry に流れる個人データ
  • API が返しすぎているフィールド —— どのフロントエンドも使っていないのに、公開エンドポイントが date_of_birth を返している
  • 第三者へのデータ送信の一覧 —— 分析ツール、CRM、決済、メール配信。どの外部ベンダーに何を渡しているかのリスト
  • AI へのデータ送信 —— マスキングされないまま LLM プロバイダーに送られる顧客データ、ベクタ DB への格納、プロンプトログへの記録
  • 暗号化の欠如 —— 平文保存、弱いハッシュ
  • 本番データのテスト環境コピー —— マスクせずにステージングへ複製する CI ジョブ
  • 削除処理の漏れ —— 冒頭の例。ユーザー行は消えるが、チケットや分析イベントは残る
  • シークレットの露出 —— フロントエンドのバンドルやテストフィクスチャに混入した API キー

製品ページの説明では、いずれも「該当するファイルと行」まで特定され、修正はプルリクエストとして提案されるとされています。Aikido にはプラットフォーム全体に AutoFix(修正 PR の自動作成)の仕組みがあり、DSPM の検出結果もその流れに乗る設計です。レポートを読んでチケットを起票する仕事が、PR をレビューしてマージする仕事に変わる。ここが従来型との実務上の一番の違いです。

正直に書く: 見つけられないものが2つある

ここからは、製品ページの FAQ にも書かれている限界と、書かれていない限界の話です。

1つ目: コードが触れないデータは見えない。

誰も参照しなくなった古い S3 バケット。数年前に誰かが手動で出力した CSV。担当者の PC からアップロードされたバックアップ。コードを読む方式は「アプリケーションがデータをどう扱うか」の地図なので、現在のコードに登場しないデータは、その地図に載りません。

クラウド側のリスク——使われていないストレージの存在、公開設定、暗号化の欠如、過剰なアクセス権——は CSPM の領分で、Aikido では同じプラットフォーム内の別機能として確認できます。ただし、CSPM がバケットの存在や設定を見つけても、その中に何のデータが残っているかまで必ず分かるわけではありません。コードから外れた「野良データ」の中身の棚卸しは、実データをスキャンする従来型 DSPM の方が得意です。

2つ目: 名前のないデータは追跡できない。

others。備考。remarks。——こういう名前のカラムに個人情報が入っていたら、コードを読む方式では、それが宝だと分かりません。伝票に「雑貨」と書かれた箱の中身は、伝票からは分からない。中身をスキャンする従来型なら、ここで見つけられる可能性があります。宝探しの唯一にして明確な優位点です。

ただし、ここで立ち止まって考えたいのです。

others に個人情報を入れるという設計は、ツール以前に、組織自身がそのデータを追跡できていないことを意味します。名前の付いていないデータは、アクセス制御の対象になりません。暗号化ポリシーの対象にもなりません。退会時の削除処理からも漏れます。監査で「個人情報の保管場所一覧」を求められたとき、誰もそのカラムを挙げられません。GDPR や個人情報保護法の実務では、「どこに個人情報があるかを説明できること」自体が求められます。名前のないカラムの中の個人情報は、その説明責任の外に置かれたデータです。

ツールが見つけられないのではなく、誰も見つけられない状態が、設計の時点ですでに始まっている。code-first DSPM が others を検出できないのは弱点ですが、同時に、この方式の検出結果は「データにきちんと名前が付いているか」という組織の規律をそのまま映す鏡でもあります。

まとめ: 対立ではなく、層の違い

DSPM 製品の比較は「どちらが多く見つけるか」の話になりがちです。しかし整理すべきは層の違いです。

従来型は、本番に置かれた後のデータを見張る。code-first は、本番に置かれる前の経路で止める。前者は実在の棚卸しに強く、後者は原因と修正に強い。両方を備えるのが理想ですが、どちらか一方から始めるなら、判断基準は明確です——守るために、本番データを誰かに見せる必要があるかどうか。

code-first DSPM の答えは「見せる必要はない」です。スキーマと伝票を読めば、荷物の中身は分かるのだから。

見方を変えれば、「実データを見ない」という制約は、権限最小化(Principle of Least Privilege)というセキュリティ設計の原則を、ツール自身に適用した形でもあります。データを守る道具が、データへの特権アクセスを要求しない。この一貫性は、方式の限界と並べて、方式の思想として評価されてよい点です。

そして others カラムの教訓がもうひとつ。データ保護は、ツールを入れる前の「データに名前を付ける」という地味な規律から始まります。どんな DSPM を選んでも、名前のないデータは守れません。


参考:

  • Aikido DSPM — コード・API 定義・インフラ設定から機微データの流れを追跡する機能

関連記事: 「データを守る」のが DSPM なら、「コードを直す」のが Aikido Libraries です。同時期に公開されたこの別機能(使用中のライブラリに CVE 修正をバックポートする機能)については、別記事で解説しています。

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Aikido Community Japan

公開日: 2026/7/22

最終更新: 2026/7/22

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