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security2026年8月22日15分で読めます

「電話に出た瞬間が勝負」— 海外ではvishingが初期侵入2位、日本も「銀行なりすまし」の次を警戒する

海外ではvishingが初期侵入の第2位に浮上し、社内ITやヘルプデスクを入口にIdentityを奪う攻撃が目立つ。日本もすでにVoice攻撃の中にあり、法人口座vishingは143件・約45億円、2026年には遠隔操作ソフトを入れさせる手口も。違いは電話の先で「銀行口座」を取るか「Identity」を取るか。

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「電話に出た瞬間が勝負」— 海外ではvishingが初期侵入2位、日本も「銀行なりすまし」の次を警戒する

要約

  • 海外では、電話を使ったフィッシング、いわゆるvishing(ボイスフィッシング)が急増している。Mandiant M-Trends 2026では、2025年の初期侵入経路としてVoice phishingが11%で第2位。メールフィッシングは2024年の14%から6%へ低下した。首位は脆弱性悪用の32%である。
  • 日本も「まだ電話攻撃の手前」にいるわけではない。すでに企業を狙ったVoice攻撃は起きている。2025年には、法人口座を狙うボイスフィッシングが143件発生し、被害額は約45億円。不正送金全体では件数は少ないのに、被害額では4割を超えた。
  • 海外と日本で違うのは、電話の先で何を奪うかだ。日本では銀行を名乗り、法人のインターネットバンキングから直接お金を奪う手口が目立つ。一方、海外では社内ITやヘルプデスクを入口に、アカウントやMFAを奪い、Salesforce、Okta、Microsoft 365などへ侵入する攻撃が目立っている。
  • さらに2026年、日本の銀行なりすましでは、企業PCに遠隔操作ソフトまで入れさせる手口が確認された。技術的な仕組みは海外型と違うが、電話で人を誘導し、本人自身に正規の操作をさせるという攻撃の構造はよく似ている。

1. 海外と日本の現在地

項目海外(主に欧米・グローバル)日本
メール/フィッシング依然として多いが、初期侵入に占める割合は低下。Mandiant M-Trends 2026ではEmail phishing 6%(2024年は14%)2025年のフィッシング報告件数は2,454,297件。過去最多で、前年比約1.43倍。依然として大量に観測されている
Voice(vishing)急増。Mandiantでは初期侵入の第2位で11%。CrowdStrikeでは2024年から2025年に134%増え、2026年上半期は2025年下半期の2倍2025年のインターネットバンキング不正送金4,747件・約104億円のうち、法人口座を狙うVoice phishingは143件・約45億円。2026年には遠隔操作ソフトを入れさせる手口も確認された
電話の先で狙うもの社内ITを装って社員をだます、または社員を装ってヘルプデスクをだます。狙いはSSO、MFA、Salesforce、Okta、Microsoft 365などのアカウント公的な注意喚起で目立つのは銀行を装う電話。主な狙いは法人インターネットバンキング。社内IT・ヘルプデスク型は、まだ同じ規模の統計としては表面化していない

つまり、「日本ではまだ電話攻撃が少ない」という話ではない。

日本でもすでに、電話で人を動かす攻撃は成立している。

違うのは、その先だ。

日本では、電話の先にあるのが銀行口座。

海外では、電話の先にあるのが企業のIdentity、つまりアカウントや認証情報になりつつある。

2. 「電話詐欺=高齢者向け」は、もう半分しか正しくない

日本で「電話詐欺」と聞くと、高齢者を狙った特殊詐欺を思い浮かべる人が多い。

確かに2025年の特殊詐欺全体では、被害者の51.3%が65歳以上だった。

しかし、急増したニセ警察詐欺では事情が違う。

最も多く狙われたのは30代で、次が20代だった。警察庁によると、2025年5月時点では20〜30代への接触のほぼすべてが携帯電話だった。

つまり、電話で相手をその場で焦らせ、リアルタイムに操作する攻撃は、すでに現役世代まで広がっている。

企業も例外ではない。

2025年、法人口座を狙ったボイスフィッシングは143件、被害額は約44.8億円。

しかも年間を通して少しずつ起きたわけではない。

2〜4月に66件発生したあと一度落ち着き、11月だけで77件、約23.1億円の被害が出た。

1社で4億円を超える被害も確認されている。

これは、「日本企業にはまだVoice攻撃が来ていない」という数字ではない。

すでに企業向けの攻撃キャンペーンとして成立している。

3. なぜ電話が効くのか

メールと電話には、大きな違いがある。

メールは非同期だ。届いても、すぐに対応する必要はない。

上司に転送できる。URLを検索できる。セキュリティ担当に聞ける。そのまま翌日まで放置することもできる。

この「考える時間」に、教育や技術対策が効く。

一方、電話は同期だ。相手はその場にいる。

「いま承認してください」「アカウントに異常があります」「この画面を開いてください」「確認のため画面共有してください」

と言われると、考える前に操作してしまいやすい。

Mandiantも、Voiceのような対話型の攻撃は、自動化された技術的な防御をすり抜けやすいと説明している。

Verizon DBIR 2026でも、Voiceやテキストなどモバイル中心の模擬攻撃は、メールより成功率の中央値が40%高かった。

メール対策が強くなるほど、攻撃者にとって「人と直接話す」方法の価値は上がる。

4. なぜ海外型は、日本ではまだ目立たないのか

海外で目立つのは、「社内ITです」「MFAの再登録が必要です」「Salesforceを開いてください」といった電話だ。

日本では、なぜ同じ手口がまだ大きな統計として見えてこないのか。

少なくとも、4つの可能性が考えられる。

(1) 日本では銀行を直接狙う方が早い

日本では、

銀行を名乗る → 経理担当者をだます → 法人インターネットバンキングの情報を奪う → 不正送金する

というルートがすでに成立している。電話一本から、そのままお金に行ける。

一方、海外で見られるUNC6040型では、

社内ITを装う → SalesforceやOktaなどのアカウントを奪う → データを取得する → 恐喝や転売につなげる

という流れになる。

攻撃者から見れば、日本ではわざわざSaaSへ入らなくても、銀行を装って直接お金を奪える。これが一つの理由かもしれない。

(2) 日本語と社内文化が攻撃のコストを上げている

Google/Mandiantは、UNC6040の成功例について、多国籍企業の英語圏の拠点で働く社員が多かったと報告している。

現在の攻撃者の「台本」は、英語圏向けにかなり作り込まれていると考えられる。

日本企業で「情報システム部の○○です」「Entra IDの再登録が必要です」と自然に話すには、日本語が話せるだけでは足りない。部署名、敬語、社内の呼び方、利用している製品、IT部門の運用まで合わせる必要がある。

ただし、この壁は今後低くなる可能性が高い。生成AI、音声合成、漏えいした社員名簿や組織情報が組み合わされれば、もっと自然な電話を大量に作れるようになるからだ。

(3) ヘルプデスクの標準化・集中度が違う可能性

ここは統計で確認された事実ではなく、ひとつの仮説である。

海外では、

全社員 → Service Desk → Entra ID / Okta → MFAリセット

のように、問い合わせ先と手続きがかなり標準化されている企業がある。

攻撃者から見ると、「この窓口を突破すれば、社員のIdentityを操作できる」という分かりやすい入口になる。巨大なAPIのようなものだ。

日本企業では、Microsoft 365は本社情シス、Salesforceは営業部門、SAPは別ベンダー、子会社は別のIT担当、というように、管理窓口が分散しているケースもある。

もしそうなら、海外と同じ攻撃を大量展開するのは少し難しくなる。

ただし、標準化されていない=安全、ではない。

窓口がバラバラなら大量攻撃は難しくなるかもしれない。一方で、本人確認もバラバラなら、「○○部の田中さんから聞いてます」「さっき部長と話しました」といった人間関係を使う個別攻撃には弱くなる。

両面がある。

(4) 起きても公表されない

日本で事例が少なく見える、もう一つの理由がある。公表されないことだ。

個人情報保護法では、一定の個人情報漏えいについて、個人情報保護委員会への報告や本人通知が必要になる。しかし、一般向けのニュースリリースまで必ず出さなければならないわけではない。

たとえば、「社員が社内ITを名乗る電話にだまされてMFAを承認したが、すぐに止めた」「ヘルプデスクが偽社員の依頼でパスワードをリセットしたが、情報漏えいは確認されなかった」という事案なら、会社が外部に発表しないことも十分あり得る。

だから、公開事例が少ないことと、実際の発生件数が少ないことは同じではない。

ここは海外の数字との比較でも注意が必要だ。MandiantやCrowdStrikeは、多数のインシデント対応案件を横断して攻撃経路を見ている。日本で外から見えるのは、警察統計や企業の公表資料が中心だ。

そもそも「見ている場所」が違う。

5. 海外では、すでに何が起きているのか

MGM Resorts

攻撃者は社員について調べ、その社員になりすましてITヘルプデスクへ電話した。そしてアカウントのリセットを引き出した。

重要なのは、一般社員だけが攻撃対象ではないことだ。「困っている社員を助ける」ことが仕事であるヘルプデスク自身が、攻撃対象になった。

UNC6040/ShinyHuntersを名乗る攻撃

この攻撃では、Salesforceの脆弱性が悪用されたわけではない。Googleは、観測したすべての事例で、攻撃者がエンドユーザーを電話で誘導していたと説明している。

電話しながら、SalesforceのConnected Appを承認させる。社員本人が正規の画面で操作する。一度承認されれば、攻撃者はSalesforceからデータを取得できる。さらにOktaやMicrosoft 365へ進むケースもある。

Google自身も、この型の攻撃でSalesforce環境からデータを取得されたことを公表している。

Cisco Talos

Talosの観測では、攻撃者はユーザー自身が行うデバイス登録より、管理者を介した登録フローを3倍の割合で狙っていた。

つまり、狙われるのは権限を持つ管理者だけではない。本人確認やアカウント復旧を代行する人も、重要な攻撃対象になる。

6. 日本でも境界線は動き始めている

日本の法人口座を狙うボイスフィッシングも変化している。

2025年に目立ったのは、

電話 → 偽の銀行サイト → ID・パスワードを入力 → 不正送金

という流れだった。

ところが2026年には、

電話 → 企業PCに遠隔操作ソフトを入れさせる → PCを遠隔操作 → ネットバンキングから不正送金

という手口まで確認された。

これはもう、昔ながらの「電話詐欺」だけでは説明しにくい。Voiceを入口にして、企業のIT環境を操作するサイバー攻撃になっている。

銀行を名乗ってPCを操作させる攻撃と、「社内ITです」と名乗ってMFAやSaaSを操作させる攻撃は、技術的には別物だ。

しかし社会工学としてはよく似ている。どちらも、電話で相手を誘導し、被害者本人に正規の操作をさせる。

違うのは、台本と操作させる画面だ。

7. 日本企業が今やるべきこと

メール対策を弱める必要はない。日本では、メールによるフィッシングも依然として大量に発生している。

ただし、電話への対策も同時に始めた方がいい。

  • 「社内ITは電話でMFA承認やパスワードを求めない」と明文化する。 社員が判断するのではなく、会社としてルールを決めておく。
  • ヘルプデスクの本人確認を電話の中だけで終わらせない。 社員番号や部署名は攻撃者も知っている可能性がある。社内ディレクトリに登録された番号へかけ直す、上長に確認する、既存チケットと照合するなど、電話をかけてきた相手が自由に指定できない経路を使う。
  • ヘルプデスクとIT管理者を重点的に訓練する。 アカウントを復旧できる人、MFAを再登録できる人、本人確認を代行する人は、特に狙われやすい。
  • 電話で遠隔操作ソフトの導入を求められたら、その場で止める。 相手が銀行でも社内ITでも同じ扱いにする。
  • 侵入される前提で監視する。 正規アカウントでログインされると、単純な認証ログだけでは見抜きにくい。大量ダウンロード、普段と違う場所からのアクセス、不自然なSaaS連携など、侵入後の行動も見る必要がある。

まとめ

日本にvishingが来るかどうか、という話ではない。もう来ている。

海外との違いは、電話の向こうで何を取りに行くかだ。

日本では、銀行口座。海外では、IdentityやSaaSのアカウント。

いま日本で目立つのは銀行なりすましだが、2026年には企業PCへ遠隔操作ソフトまで入れさせるところまで進んだ。

次に台本が「銀行です」から「社内ITです」に変わっても不思議ではない。

必要なのは、技術をもう一つ追加することだけではない。

電話の中だけで本人確認を完結させない。その運用ルールを、今のうちに決めておく必要がある。


参考:Mandiant M-Trends 2026 / Verizon DBIR 2026 / CrowdStrike Threat Hunting Report 2025・2026 / Cisco Talos / Google Threat Intelligence(UNC6040)/ 警察庁・JC3 / 全国銀行協会 / フィッシング対策協議会 / 個人情報保護委員会

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Aikido Community Japan

公開日: 2026/8/22

最終更新: 2026/8/23

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